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フィギュア スケート コラム 2025年4月28日

ミハイル・シャイドロフが悲願の初優勝「今は亡きデニスと母国カザフスタンのために」| ISU四大陸フィギュアスケート選手権2025 男子シングル レビュー

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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悲願の初優勝を果たしたミハイル・シャイドロフ

まさに今シーズンの台風の目、ミハイル・シャイドロフ(カザフスタン)が、ついにチャンピオンとなった。極めて難度が高く、挑戦的で革命的なプログラムを完璧にまとめ上げて、自身にとって初めての四大陸選手権タイトルをつかみとった。

「僕にとって大きな飛躍のシーズンになりました。予定通りにコンビネーションジャンプを披露できたことが嬉しいですし、今日の自分のパフォーマンスに、とても満足しています」(シャイドロフ)

今季ここまでプログラム2本をノーミスで揃えることができずにきたシャイドロフだが、この四大陸ではショートプログラム(SP)も、フリースケーティング(FS)も、これ以上ないほどクリーンに演じきった。

FSは2位以下に12点以上の大差をつけて臨んだが、実は演技前、ひどい緊張感に襲われたという。1位で大会を折り返したのはキャリアでわずか2度目でしかなかったし、ISUチャンピオンシップのような大舞台での最終滑走は、初めての経験だった。

幸か不幸か、開始ポーズを取ったシャイドロフの耳に聞こえてきたのは、自分のプログラムの楽曲ではなかった。

「楽曲ミスに、実は助けられたんです。SPを1位につけるなんて予想もしていませんでしたから、ものすごいプレッシャーを感じていました。でも楽曲問題のおかげで、重圧が取れ、気持ちが軽くなりました」(シャイドロフ)

改めて開始位置につき、今度こそベートーヴェンの「月光」がリンクに流れると、シャイドロフは流れるように滑り出した。

そしてプログラム冒頭の……3A+1Eu+4S!昨年末のGPファイナル以来トライしてきた地上最難関コンビネーションを、とうとう完全な形で披露した。驚異的な幅と、余裕さえ感じさせる長い滞空時間に、細くて速い回転軸。3本目に4回転をつけるという、とてつもなく難しいことを、シャイドロフは優雅にやってのけた。

このジャンプ要素ひとつだけで21.11点(基礎点18.20+出来栄え点GOE2.91)という凄まじいハイスコアをもぎ取っただけでなく、続く大きな4Lzでは、今季フィギュア界で4番目に高いGOE加点を得た。4Tは空中姿勢が斜めになりながらも、まるで危なげなく着氷し、プログラム後半の4T+3Tは音楽にピタリとはまる気持ち良さ。全参加選手の中で唯一4回転を4本組み込み、すべてをパーフェクトに飛んだ。

FS終盤でアップテンポな「テイク・オン・ミー」に曲が変わると、最後まで集中力を切らすことなく、熱の込もったパフォーマンスを見せた。得意なジャンプとは違い、ステップやスピンはいくつかレベルを落としたが、当然のようにパーソナルベスト(PB)を大幅更新。シーズン前半のGP中国杯で塗り替えたばかりのPBを7点以上も上回り、初の190点台に乗った。

SP94.73点、FS190.37点と申し分ない得点を2つ並べ、総合でもやはりPBの285.10点を獲得。2位に20.08点の大差をつけ、自身4度目の四大陸挑戦で、20歳のシャイドロフが金メダルをつかみとった。2022年世界ジュニア2位に続いて自身2度目のISUチャンピオンシップ表彰台であり、カザフスタン選手としては、史上2人目の四大陸制覇だった。

しかも今は亡きデニス・テンが2015年に優勝をしてから、ちょうど10年目に、同じソウルの、同じアリーナで手にした快挙だった。あの日のテンが、リンクに大の字になって喜びを噛み締めたように、この日のシャイドロフも、氷に寝転んで天を見上げた。

「今日このメダルを獲得できたことは、僕自身にとってだけでなく、僕が生まれ育った祖国にとっても、大きな意味を持ちます。カザフスタンのためはもちろん、デニスを追悼するためにも、とても意義あることだと信じています」(シャイドロフ)

地元・韓国の星チャ・ジュンファンは、SP4位で折り返しながらも、FSでシーズンベストを叩き出し、逆転の銀メダル。3年前の四大陸覇者にして2年前の世界選銀メダリストが、地力の高さを改めて証明した。

「観客の皆さんからたくさんのエネルギーをもらえたおかげで、FSを良い形で締めくくることができました。好調さを維持し続けるのは少し大変でしたが、韓国開催だったからこそ、ベストを尽くしました」(ジュンファン)

ほんの1週間前にアジア冬季競技大会を勝ち取ったばかりだった。たしかに「大きな自信」にはなったが、「逆にプレッシャーにもなった」とも振り返る。そもそも「連戦の疲れを感じていた」と、正直に打ち明けた。ただSPでは4S予定が2回転ノーバリューとなり、締めのスピンでもレベルを大きく落としながらも、4位に留まったのはさすがとしか言いようがない。

やはりFSでも4Tが2回転になるミスがあった。それでも現役屈指の完成度を誇る4Sは、今度こそ完璧に決めたし、それ以外のエレメントもすべて上質にまとめ上げた。特に真紅の衣装が映えるステップシークエンスやコレオシークエンスでは、GOEの最高評価5をつけるジャッジも多かった。演技構成点(PCS)はSP・FSともに文句なしの首位で、特にFSでは、今季初めて3項目すべてを9点台に乗せた。

「5年前にソウルで四大陸が開催されたとき、絶対にメダルを取ろうと意気込んだのですが、最終的には5位に終わりました。今回ついに目標を達成することができて、本当に嬉しく思っています。この結果は、この先へのさらなるモチベーションとなります」(ジュンファン)

3位ジミー・マ(アメリカ)は、29歳にして、初めてのISUチャンピオンシップ表彰台に飛び乗った。代替代表として乗り込んだ大会で、キャリア最大の栄誉を手に入れた。

大きい試合のSPでトップ3入りしたことなら、実は何度もあった。GP大会では2度。2年前の四大陸でも、さらには今季の全米ナショナルでも、SPだけなら3位だった。ただ、いずれもFSで大きく崩れ、表彰台のチャンスをことごとく失ってきた。

今回のマは、ついにジンクスに打ち勝った。飛行機事故で多くの関係者を失ったボストンスケートクラブの一員として、全身全霊で戦い抜いた。FSではジャンプで転倒や氷に手をつくミスもあったが、決して気持ちを切らさず、最後の瞬間まで心を込めて演じ続けた。

「成績のことは考えずに大会に臨みました。目標はただ、自分が心の底から誇りに思えるような演技を、2つ披露することだけでした。もちろんメダルは最高のご褒美で、なんだか信じられない気分です。彼らが僕を誇りに思ってくれるとよいのですが」(マ)

日本勢は4位友野一希、5位壷井達也、6位三浦佳生と続き、9年ぶりにメダルには届かなかった。ただ3人は揃って素晴らしく健闘し、それぞれが次につながる経験を持ち帰った。なにより友野がSP・FSともにPCS2位、三浦がやはり両プログラムともPCS3位に入ったのは、間違いなく讃えるべき成績だ。

ジャンプに大きなミスがありながらも、友野はSPは3位のスモールメダルに輝き、一方でFSはシーズンベストの素晴らしいパフォーマンスを見せながらも、わずか0.25点差でスモールメダルを逃した。

FSでは決定的な失敗があったわけではない。ただ女子で胃腸炎に苦しんだ千葉百音と同様、友野も体調不良との戦いだったという。冒頭4つのジャンプ要素で、パンクや着氷の乱れが重なり、少しずつ得点を失った。

しかし、プログラム中盤以降は、完璧そのもの。あらゆるステップやスピンでしっかりレベル4を取り、特に音のひとつひとつを活き活きと表現するステップシークエンスは、高いGOE評価がついた。小粋で、現代風で、とてつもなく難解なプログラム「バタフライ」を、ついにひとつの作品として完成させた。

左太ももの怪我のせいで、ジャンプ練習を再開したのは1週間前……という三浦は、あくまで攻めの姿勢を貫いた。

SPは4回転を1本に減らした代わりに、得点が1.1倍になる後半にコンビネーションを移動。FSも冒頭から立て続けに4回転を2本飛んだ。しかも転倒や着氷の乱れに苦しみ、中盤に予定していた2度のコンビネーション機会を逸すると、最後の最後に「気合」と「根性」で予定外のコンビを2つ組み込んだ!

FSの演技後には痛みに顔を歪めた三浦だが、「自分にやれることは全部やったので、満足しています」と、前向きに大会を締めくくった。

四大陸でメダル経験のある2人と異なり、シニアでは初めてのISU選手権となる壷井にとっては、ひどい緊張との戦いだったという。SPでは最初の4Sでいきなり転倒があった。FSもまた序盤3つのジャンプ要素で着氷が乱れた。

その後は両プログラムともに、しっかりとまとめ上げた。だからこそSPは後半のコンビネーションで高いGOE加点がついたし、PCSは2シーズンぶりにPBを塗り替えた。さらにFSでは基礎点を4点近くも一気に更新。総合的に技術力が向上していることを印象づけた。

文:J SPORTS編集部

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