ガクエンの「10番でキャプテン」を託されたプレーメイカー。静岡学園高校・篠塚怜音がさらなる進化のために背負い切る重責への決意 【NEXT TEENS FILE.】

静岡学園高校・篠塚怜音

全国に名だたる強豪校の10番を背負っている上に、キャプテンまで任されているのだ。大きなプレッシャーがのしかからないはずもない。それでも、やる。やり切る。誰もが担えることではないとわかっているからこそ、その期待に全力で応えてみせる。

「このユニフォームを着て、キャプテンマークを巻いて試合前に準備をしていると、責任を感じます。だから、それを自分の中でちゃんと整理して、10番とキャプテンという両方の責任を、良い方向に向けていけたらと思います」

絶対的なスタイルを貫く高校サッカー界の異端児集団。静岡学園高校の『10番でキャプテン』に指名されたプレーメイカー。篠塚怜音は与えられた責任をポジティブに受け入れながら、チームと自身の立つべきステージをさらに高めるべく、日々サッカーボールと向き合っている。

「ここまでの4試合も自分たちの中ではうまく行っていないなという印象で、今日も立ち上がりから『自分たちのスタイルでやろう』という話はしていたんですけど、あまりうまく行かなかったですね」

篠塚はやや渋い表情で、前半の45分間を振り返る。プレミアリーグWEST第5節。サンフレッチェ広島F.Cユースをホームに迎えた一戦は、前半のうちに先制点を献上。攻撃面でも相手の堅陣を崩すようなコンビネーションや、個人で打開するようなエネルギーが出てこない。

今季の静岡学園はなかなか結果が付いてこなかった。開幕戦は後半アディショナルタイムの失点で、前年王者の大津高校に土壇場で追い付かれ、ドロー決着。第2節はサガン鳥栖U-18に0-3で完敗。どちらの試合も中盤のインサイドハーフを務めた新10番も、思うようなパフォーマンスを披露できたとは言い難い。

第3節の東福岡高校戦。キャプテンがスタートから立っていたのは右サイドバックのポジションだった。「1節目、2節目は自分のプレーが全然うまく行っていないことはわかっていて、その中でも中盤を外されたことは悔しかったですけど、サイドバックでもプレーできるところが自分の強みでもあるので、しっかり自分のプレーを出そうと思っていました」

　

良い意味で吹っ切れ、好パフォーマンスを見せると、そのまま次節の神村学園高校戦でも右サイドバックで起用されたものの、後半途中から中盤アンカーにスライド。チームはそこから2点を奪い、4試合目にしてリーグ初勝利を記録する。

「少ない時間ですけど、また中盤の感覚を取り戻して、上手くプレーできたなと思います」と手応えを口にした篠塚を、川口修監督はこの日の広島ユース戦で試合開始から中盤アンカーに配置。前述したようにチームは思ったようなリズムを掴めなかったが、10番は攻守に一定以上の存在感を発揮していた。

1点を追い掛ける後半は、左サイドに投入された山田悠太の推進力がハマり、一転してホームチームが攻勢に。「山田が入って前に運ぶことをやってくれていたので、そこでみんながうまく関わって、良い攻撃ができていたかなと思います」(篠塚)。終盤の87分にはPKを獲得した山田が自ら決め切って、スコアを振り出しに引き戻す。

結果は両チームが勝点1を分け合う形になったが、「今まででは一番自分たちのスタイルは出せたのかなと思います」と篠塚も話した後半は、いわゆる“ガクエンスタイル”を十分に打ち出せた45分間に。今後に希望の光が射すドロー劇だったことは間違いないだろう。

2年生だった昨シーズンは、高校選手権でこそ1回戦から3試合連続ゴールをマークし、一躍注目を集める格好となったが、そもそもプレミアで初スタメンを勝ち獲ったのは6月の第8節・帝京長岡高校戦。そこまではベンチ入りもままならない時期が続いていた。

ただ、そんな苦境を無為に過ごしていたわけではない。「試合に出られなくて、結構辛かった時もありましたけど、その時期に自分なりに凄くいろいろ考えてやってきたので、徐々に自分のプレーを生かすところがわかってきたところもあって、そこが大きかったかなと思います」

地道な努力を重ねて定位置を引き寄せると、後半戦はほとんどの試合で先発出場を果たし、自信を付けて臨んだ冬の全国でも、インサイドハーフの位置で得点を重ねてブレイク。1年の最後の最後で、その名前を多くの人へアピールすることに成功したというわけだ。

今年に入ってからはU-17日本高校選抜の活動にも参加。同年代のタレントたちと切磋琢磨を繰り返す中で、さまざまな気付きがあったという。「凄い刺激をみんなからもらいましたね。高校選抜ではみんなボールを持ったら前を向いて、チャンスを作りに行く意識の高さを感じましたし、それが自分に足りないところだと思ったので、そこを自分の課題として練習に取り組んでいます」

とりわけ自分と同じポジションで躍動していた選手権王者のボランチからは、大きな刺激を受けたようだ。「前橋育英の柴野(快仁)は自分にないものを持っていて、自分は選抜で本来のプレーをあまり出せなかったんですけど、彼は所属チームではなくても自分でボールを持って、チームを動かしていたので、『自分はまだまだだな』と思いました。でも、戦ったら絶対に負けないとは思っています」

リーグは東西で異なるため、柴野と対峙する可能性があるのはインターハイや高校選手権、あるいはプレミアリーグファイナルといった一発勝負のビッグコンペティションだけ。より成長した姿で“再会”する日を見据えながら、日常のトレーニングを積み上げるのみだ。

2025年は高校最後の1年。この仲間たちと最高の景色にたどり着きたい。「あまりチームとして開幕ダッシュはうまく行っていないですけど、まだ時間はあるので、もっと早い段階で個人もチームも大きく成長していって、インターハイもプレミアも選手権も優勝争いできるように頑張っていきたいです」

小さくない責任を担うのならば、それをすべて自身のパワーに昇華させてやる。穏やかなたたずまいの中に、負けず嫌いの炎を燃やす静岡学園の『10番でキャプテン』。このチームが望んだ場所へとたどり着くためには、篠塚怜音のさらなる進化が、絶対に欠かせない。

　

文：土屋雅史