千賀滉大、防御率1位でも「今はいい球が投げられていない」の真意

フォームを確認する千賀滉大

求めるレベルの高さを知った言葉だった。

メッツの千賀滉大（32）は5月31日のロッキーズ戦で6回1/3を投げ、2安打2失点の好投で6勝目（3敗）を挙げた。その試合後の会見。本人は何気ない言葉だったかもしれない。ただ、本音が漏れたのも間違いない。そして、驚かされた。

「今はいい球が投げられない分、どうにかしていく中で、自分でうまく試合を作っていけていると思います」

この時点で規定投球回はクリアしており、防御率は試合前の1.46から1.60とわずかに悪化した。それでもナ・リーグ防御率ランキングでは1位だ。それにも関わらず、この日投げたボールの評価は「今はいい球が投げられていない」と厳しかった。

安定的に好結果を示しているが、自身が投じているボールには、まだまだ納得がいってない、ということだ。それでも試合を崩さずにゲームメークできる要因には「日本から含め、本当長くマウンドにいることが僕の中で今、強みで生きている」と経験値を挙げた。

右腕を上に掲げる予備動作

千賀の日々の調整方法は独特だ。キャッチボールでは、右手を上にかざす予備動作を多く行う。ときには、屈伸するように下半身への体重のかかり方を意識していることがうかがえる。さらに右股関節へ上体が乗るようなイメージの動作もたびたびみせる。

下半身を沈み込むような動作

昨季は春季キャンプで右上腕を痛めた。リハビリも一進一退を繰り返し、レギュラーシーズン初先発は7月26日のブレーブス戦までずれ込んだ。その試合でも、守備中に左ふくらはぎを痛め、復帰はポストシーズンだった。

そんな1年前を踏まえ、右腕を含めケガをするリスクを極力低くした投球フォームの構築。そして、高い出力を保ち、打者を抑えることのできるボールを投げる。それが、千賀の2大テーマだ。身体の仕組みを研究し、力の伝達にロスがないフォームを探し求めている。

キャリア全般を通して長い時間をかけて追求してきた投球フォームだったが、昨季の故障で『やり直し』を強いられた。だからこそ今季、好成績を示しているにも関わらず「いい球が投げられていない」というジレンマを感じているのでは、ないだろうか。

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その中で千賀は、自責点3以下の登板が、メッツの球団記録で4位となる28登板連続となった。本人が納得するボールが投げられない今季、チームが要求する中5日でのローテーションを守り、チームに勝利するチャンスを与えるゲームメークを続けている。

「この土台を作ってくれたのは、やっぱりダルさんであり、いろんな方のアドバイスもそうですけど、そういう方のアドバイスでどういうふうにやっていくかを自分の中で見つめて、長い準備をかけてやれている」

師と仰ぐダルビッシュ有投手（38）の名前を真っ先に挙げるなど、助言を与えてくれた周囲のサポートに感謝した。

千賀は毎日のキャッチボールでも正面や横からの動画を撮影し、フォームをチェック。ブルペンでは、1球ごとに回転数や変化量などのデータを確認しながら、フォームと実際の球を照らし合わせている。毎日、地道な積み重ねで「いい球」を投げられる努力を続けている。

一方で「すごい球を投げられる状態になったとしても、打たれる、打たれないは別（問題）。すごい球で追い込んでも、最後の最後に（ボール）半個分甘くなったらそれで打たれますし、そういう世界」と最高レベルの勝負に身を置く厳しさを知る。

己の投球を突き詰めながら、チームの勝利に結びつくボールを投げ続けることが究極の目標だ。

文／写真：山田結軌（MLBジャーナリスト）